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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(オ)910号 判決 1957年12月13日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人片山通夫、同押谷富三の上告理由第一点、並びに同押谷富三、同田宮敏元の上告理由第一点について。

第一審において、全部勝訴の判決を得た当事者(原告)も、相手方が該判決に対し控訴した場合、附帯控訴の方式により、その請求の拡張をなし得るものと解すべきである。本件原審において、被上告人がした所論請求の拡張も、これを実質的に観れば、附帯控訴に外ならないものと解すべきであり、その方式においても、民訴三七四条、三六七条に反するところのないことは、記録上明らかであるから、右請求の拡張すべからざるものとする論旨は、採用することはできない。(なお、貼用印紙の不足額については、当審において被上告人をして追貼せしめたから、この点においても、欠くるところはない。)

上告代理人片山通夫、同押谷富三の上告理由第二点について。

昭和二一年九月二〇日被上告人と上告人との間に本件裁判上の和解が成立したことは、原審の確定したところであり、本訴は、被上告人が上告人に対し右和解契約の履行を請求するものであつて、たとえ、右裁判上の和解に所論のような訴訟法上の効力に関する問題が存在するとしても、その如何にかかわらず、右裁判上の和解において、当事者間に私法上の和解が有効になされたことは争い難いところであるから、所論は、ひつきよう、右私法上の和解の履行を求める本訴請求を拒否する理由とはならないものである。

上告代理人片山通夫、同押谷富三の上告理由第三点、第四点、同鍛治利一、同片山通夫、同押谷富三の上告理由第五ないし第八点、および、同押谷富三、同田宮敏元の上告理由第三点について。

原審は、本件土地賃貸借契約について、被上告人は、かねてから本件土地を含む一、一〇七・四坪をビル建築用敷地として使用する計画を持つていたため、これを長期にわたつて他に賃貸することのできない事情が存したことを認定した上、本件賃貸借成立に至る動機、その契約内容、本件土地の位置および周囲の環境等に関する諸事情を判示のように認定し、これ等の諸事情と挙示の各証拠を綜合して、本件土地賃貸借の設定をもつて、借地法九条にいわゆる土地の一時使用のために賃借権を設定したことが明らかな場合に該当するものと判断したのであつて、原審の右の判断は首肯し得るところである。所論はいずれも右原審の認定ならびに判断を非難するものであるが、原審の右判定は正当であつて、論旨を採用することはできない。(なお第八点の所論は単に違憲に名を藉りて原審が正当になした判断を攻撃するにすぎない。)

上告代理人片山通夫、同押谷富三の上告理由第六点について。

一時使用のための賃貸借の場合、契約の更新に関する所論借地法等の規定の適用のないことは明らかであり、本件賃貸借において、正当の事由がなければ契約の更新を拒絶することができない旨の約款の存したことは、原審において上告人の主張しないところであるから、原判決がその点について特段の判断をすることなく、本件賃貸借は約旨に従つて、期間の満了により終了した旨判示したことをもつて、原判決に所論のような違法ありとすることはできない。

上告代理人片山通夫、同押谷富三の上告理由第五点、同鍛治利一、同片山通夫、同押谷富三の上告理由第九点について。

原判決が本件明渡の請求をもつて、所論のような権利の濫用にあたらないとした判断は正当であつて、右判示に所論のような違法あることはみとめられない。

上告代理人片山通夫、同押谷富三の上告理由第七点、同鍛治利一、同片山通夫、同押谷富三の上告理由第一〇点、同押谷富三、同田宮敏元の上告理由第二点について。

被上告人の上告人に対する本件土地の明渡請求は、本件賃貸借の終了を原因とする明渡義務の履行を求めるものであるから、右賃貸借終了の事実を認定し貸借人たる上告人に右土地の明渡ならびに約定賃料額相当の損害金の支払を命じた原判決の所論判示に何ら違法のかどはない。被上告人が上告人をして本件土地を使用収益することを得しめない事実若しくは被上告人がすでに本件土地の一部につきその占有な回復した事実のごときは、原審において上告人の主張もなく、原審の認定しないところである。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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